九州マーチングセミナーを振り返って

         宮崎県吹奏楽連盟 副理事長  齋藤眞人

 4月20日(土)・21日(日) 田野中学校において第23回九州マーチングセミナーが開催されました。田野中での開催は平成11年3月についで2回目で、講師も前回と同じ井芹康貴先生(マーチングバンド指導者協会公認指導員)と久保田真理先生(同準公認指導員)のお二人にお願いしました。参加校は次の通りです。

【中学校】11校
合志町立合志中学校(熊本県)・延岡市立東海中学校・延岡市立西階中学校
延岡市立南中学校・日向市立富島中学校・日向市立日向中学校・佐土原町立佐土原中学校
宮崎市立生目台中学校・三股町立三股中学校・高城町立高城中学校・田野町立田野中学校

【高等学校】4校
大分女子高等学校・宮崎県立宮崎商業高等学校(マーチング部)・宮崎県立宮崎農業高等学校
宮崎県立都城商業高等学校

【指導者のみの参加】
宮崎市立大淀小学校・宮崎市立赤江小学校

 前回は参加者37名でしたが、今回は生徒だけで何と163名という、前例のない大規模なセミナーになりました。上記計15校のうち、マーチングコンクールに過去3年間で出場経験のある学校は7校、マーチングそのものをまったく初めて経験する学校が4校という内訳です。このことから、講習のねらいをどこに設定するのかが、大変重要な問題でした。技術の向上を目指すのか、または普及を目指すのか等、前日の19日にはお二人の講師の先生に加え、久保田宏之(九州吹奏楽連盟常任理事・宮崎県吹奏楽連盟顧問)に私と計4人で、細心の打ち合わせを行い当日を迎えました。内容は次の通りです。

○ 20日午前の講習 
通常の講習会は、開会行事の後すぐに講習に入ります。しかし、レベル(技術よりむしろ意識)に差のある参加生徒の気持ちを高めるためには、何か工夫が必要です。そこでまず開会行事では、参加団体の自己紹介や、生徒代表作文の発表を組み入れました。その中でマーチング初経験の宮崎農業高校吹奏楽部の川崎さんの「体育館の中に入ったとたん他団体の活気に圧倒された」という言葉が大変印象的でした。
開会式に続いて、不肖私が「リーダーとしての心構え」と題して、この講習会を通してどのように変容して欲しいのかを講話しました。二日間寝食を共にするのですから、下手な遠慮は講習そのもののステータスの低下につながりかねません。

163名がひとつのチームとしての帰属意識をしっかりと自覚できるように配慮しました。この時間帯には毎回大変気を使います。講習会の成否の鍵をにぎる貴重な時間帯だと考えているからです。


 続いていよいよ井芹先生の講習が始まりました。井芹先生の卓越した指導力はもちろんですが、毎回その素晴らしい人間性に感動させられます。生徒達もさすがに一瞬にして井芹先生の人柄が理解できたらしく、全体の緊張感あふれる雰囲気の中に、何とも言えない温かい空気が感じられるのにそう時間はかかりませんでした。また井芹先生とアシスタント役の久保田真理先生との呼吸もぴったりで、約半数が初心者に近い状態であることを忘れさせるスピードで内容が消化されていきます。我々指導者にとっては、井芹先生の時間の使い方が、これまた大変有意義な勉強になりました。生徒のテンポをその話術で絶妙に操り、下手な間を空けずにあっという間に昼食の時間になりました。生徒達は学校をいり混ぜた10班に別れての昼食です。我々引率保護者は、田野中吹奏楽部後援会のお母さん方が炊き出ししてくださったおにぎりと豚汁を頂きました。おいしかった〜!

○ 20日午後の講習 
午後も午前と同じく疲れを感じる暇もないほどの充実した時間を過ごすことが出来ました。その中で気になったことは、目を見張る初心者の上達のスピードに対して、経験者のレベルの頭打ちでした。午前中はその差が極めて大きかったのに比べて、午後は一気に初心者と経験者のレベルが詰まっているように感じたのです。これはもちろん初心者がそれだけうまくなったということもありますが、むしろ経験者が初心者のレベルに落ちてきているように見受けられました。「マーチングはうまい人と練習しろ」と良く言われます。日頃の練習方法のひとつに、部員をレベルわけして練習している団体を良く見かけますが、なるほど一理ある練習方法であることを実感させられました。
休憩時間には今年一月に武道館でグランプリを取った「創価ルネサンスバンガード」の演技をビデオで鑑賞しました。生徒達は場面場面で歓声をあげ、終了時には思わず拍手喝采でした。ほとんどの部員が初めて見たと言うことでしたが、こうした視聴覚教材はある程度の出費であっても積極的に購入する必要を実感しました。百聞は一見にしかずです。
休憩後も生徒達の気迫は相変わらず高く、体育館は何とも言えない満たされた空間となっていました。講師陣から何かを学び取ろうという意欲は、終始大きな声となって体育館に響き渡り、日頃はあまりそのような習慣のない団体でさえも、いつのまにか元気良くあいさつや返事ができるようになっていました。「これだけでも連れてきた甲斐があった」という引率の先生の言葉が、内容の充実を物語っています。こうして初日の体育館での講習は終了し、宿泊所の長日川へと向かいました。

○ 20日の夜の講習
さすがにマーチングに取り組んできるメンバーだけあって、長日川での夕食・入浴も、実に効果的に時間を使うことが出来ました。宿泊者は123名。過去30数年の長日川の歴史の中で最大の宿泊者だそうです。入りきらなかった田野中の部員は、同じく佐土原中の部員の皆さんのホームステイを担当することになりました。
7:30すぎに大広間に全員集合し、まずは沖縄県立西原高等学校の演技を鑑賞しました。名門大分女子高校の皆さんが、西原のビデオを鑑賞すると聞いた時に、無邪気に歓声を上げ喜ぶ姿が微笑ましかったです。同じ高校生から親愛と尊敬の情を受ける西原の素晴らしい演技は、大広間が本当に興奮の空間となりました。あちこちで鳥肌をさする生徒達の姿が見られました。その後全体を10班にわけ、翌日のグループ発表のコンテ作成に入りました。これは今回はじめての試みでしたが、生徒達の手で協力し合ってひとつの演技を完成させることは、素晴らしい意義があると考えたのです。この時間帯になると、他の学校の生徒とも打ち解けて、お互いに楽しく意見を交換していました。
また引率保護者は、井芹先生を囲んで本当に楽しい時間を過ごすことが出来ました。深夜まで熱く熱くマーチングについて語り合える素晴らしい雰囲気でした。大部屋で11人で寝るという修学旅行並みの状態に、ひょっとしたら生徒達よりもテンションが高かったかもしれませんね。子供じみた無邪気な傑作シーン満載の大人部屋の夜でしたが、ここでは諸先生方の人権擁護のため、内緒にしておきたいと思います!風情のある露天風呂とあわせて、生徒達にとっても引率保護者にとっても、忘れられない夜の思い出になったはずです。

○ 21日午前の講習 
   7:50前後には、ピストン輸送のマイクロバスで田野中体育館に参加生徒が到着し始めました。朝食の到着を待つまでの間、早速体育館内ではフロアいっぱいに生徒達が散らばり、マークタイムや前日の復習などが自発的に始まりました。素晴らしいことです。まだ朝食もとっていないのに。やがて朝食が到着。自分の学校の生徒のことで実に書きにくいのですが・・・こういった場面での田野中生徒の動きには本当に助かりました。ひとつの仕事に全部員が殺到し(決して効果的ではありませんが)、進んで配膳等に取り組む姿勢に感心させられました。
 

  9:00前には、日向中の金井君の号令で何ともへんてこな準備体操が始まり、体育館は爆笑の渦でした。そして井芹先生のきびきびとした指導に、一気にL字からサーキットまで消化していきます。こうして午前中には、マーチングで使用する基本的な動きは、一応大半を消化することが出来ました。昼食は田野中吹奏楽部後援会の炊き出しによる「カレーライス」です。昼食中、前日よほど感動したらしく「西原やルネバンのビデオが見たい」というリクエストが相次ぎ、急遽体育館にプロジェクターを持ち込み、ステージ全面に映像を映写するという大迫力で演技を鑑賞しました。


○ 21日午後の講習
   講習の最後をグループ別発表で終えるための練習にあてました。課題曲のホルストの第1組曲のマーチにあわせて、各グループ思い思いにアイデアを出し合っています。さすがに限られた時間でしたのでなかなか苦労したようですが、初めて人前でドリルらしきものに挑戦する子供達にとっては、相当緊張する有意義な時間帯だったようです。
  また即席のガードチームも編成されました。
発表は最後まで順調に演技ができたグループはなかったものの、各グループとも誠実に精一杯の演技をすることができました。伝統の合志中のみなさんの卓越したリーダーシップはさすがでした。また高校生連合軍は、中学生とは一線を画す見事な構成で大きな拍手を受けていました。発表終了後、閉会式の準備をするわずかな時間でさえ、井芹先生はメジャー希望者を集めてレッスンをしてくださいました。その献身的な姿勢には本当に頭が下がります。
閉会式では、井芹先生・久保田先生からの講評に続いて、大分女子の上野先生の言葉、生目台中学校部長の齋藤さんの作文発表と続き、最後は田野中のアトラクション演技「アフリカ」ですべての幕を閉じました。26名での精一杯の演技は決して技術的に高いとは言えなかったものの、天理愛町のアイデアを随所に模倣した楽しい内容で盛んな拍手をもらっていました。こうしてあっという間の二日間は、名残惜しく無事に園全日程を終了したのでした。

○ 全体を振り返って
まず持って、遠路はるばる参加された大分女子の上野先生と生徒さん、熊本合志中の赤星先生と生徒さんの努力に、頭の下がる思いがしました。また保護者のみなさんの献身的なお世話に、本当に頭の下がる思いがしました。
井芹先生の指導は、単に要領が良いとかそのようなレベルを超越した素晴らしいものでした。我々指導者の今後の大きな指針になるものであります。また参加団体のレベルに配慮して、技術講習に終始することがないように、しつけや部員としての心構えにおいても大きな成長が得られるように配慮したことも、成功の大きな要因であると思っています。

今後の課題としては、参加者数と日程の問題等もありますが、何よりも講習終了後にどのように内容を生かしていくかではないでしょうか。これで終わりではまったく意味がありません。ここからどう始めるかが、我々の姿勢が問われると思っています。

最後に、この講習会を開くにあたりご協力いただいたすべての方々に心からお礼を申し上げ、はなはだ内容は意を尽くしませんが、内容報告に変えさせていただきます。本当にありがとうございました。

写真提供 生目台中学校  小川 芳史